レゴリス採取の裏ワザ、空気銃
宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系
佐藤 泰貴
Dr. Yasutaka Sato, the Department of Space Flight Systems, ISAS
火星衛星は、人類が未だ到達していない未知の世界であり、何があるのか全くと言っていいほどわかっていません。火星衛星探査計画(MMX)は、そんな未知の土地から砂を採取し、地球に持ち帰る、とてつもなくチャレンジングなことを実行します。このため、既往のデータをもとに幾度となくチーム内で議論を重ね、火星衛星表面の砂の硬さや大きさ等を分析してきました。7月18日の同記事で紹介したコアラーは、この想定する条件下で最も効率的かつ確実に土壌を採取する方法です。
とは言うものの、100%想定通りとはいかないのが宇宙探査のサガです。万が一のことも想定したサンプリングシステムにすることが重要になってきます。例えば、硬い岩盤のうえを、うっすらと砂が覆っている状況を想像してみてください。コアラーでは地面に突き刺さらず、砂の採取が困難になります。このため、念には念をということで、メインのサンプラーに加えて他の方法にもトライしようと考えました。
そこで、米国の探査ミッションにおいて高いサンプリング技術を開発してきたカリフォルニアのHBR(HoneyBee Robotics)社に2016年4月に相談を持ち掛けました。これまでのHBRの豊富な経験をもとに議論した結果、空気銃を吹き付けるニューマティックサンプラーを用いれば、下に岩盤があったとしても、表面の砂を採取できるとのことでした。ただ、国をまたぐ開発となるため、取り付け方法や採取シーケンスをいかにシンプルにするのかが課題でした。
約一年間、HBRとJAXAでそれぞれニューマティックサンプラーの搭載方法を検討してきました。そして、2017年8月16-17日に掲載写真にあるようにHBRを訪問し、探査機への搭載方法などをFace-to-Faceで議論してきました。その結果、メインのサンプリングシステムとの機器の共通化によって取り付け方法を単純化するとともに、運用上も堅牢なシステムを成立させることができました。
HBRは、若手の優秀な技術者が集まっているエネルギッシュな会社で、クイックに検討が進んでいきます。ニューマティックサンプラーでは、ノズルの入(In)と出(Out)の形状を絶妙に設計することでより多くの砂を採取することができ、HBRは多くの実験や解析から、最適な形状を検討しています。今回の訪問では、願掛けを込めてIn-n(and)-Outというハンバーガー屋さんで食事してきました。米人気バーガーチェーンIn-n-Outがお客さんをたくさん集めるように、我々も火星衛星のレゴリスをたくさん集められるよう、頑張っていきますので、これからも応援よろしくお願いいたします。