オレンジの円に、5年間の旅を込めて ~ MMX打上げ告知ポスターに込めた思い ~
文:JAXA宇宙科学研究所 科学推進部 那須 祐介
2026年10月、MMXは地球を旅立ちます。
めざすのは、遠い火星のそばを回る小さな月、フォボス。そこで砂や石のかけらを集め、長い宇宙の旅をして、地球へ帰ってきます。
帰ってくるのは、約5年後。
この大きな冒険を、一枚のポスターでどう伝えたらよいだろう。
私たちが選んだのは、大きなオレンジ色の円でした。

この円を見て、何を思い浮かべるでしょう。
ある人には、赤く輝く火星に見えるかもしれません。ある人には、火星の近くを回り、オレンジ色の光に照らされたフォボスに見えるかもしれません。またある人は、地球を飛び立ったMMXが宇宙をめぐり、再び地球へ帰ってくるまでの大きな旅の軌跡を思い浮かべることでしょう。
どれも、間違いではありません。
このオレンジ色の円が何に見えるのか。その答えは、ポスターを見る一人ひとりの想像に委ねています。この円を入り口に、遠い火星やフォボス、そしてMMXがたどる約5年間の壮大な宇宙の旅に、皆さんの思いを巡らせてほしいからです。一つの円から、それぞれの心の中に、まだ誰も見たことのないMMXの物語が広がっていくことを願っています。
この円のもとになったのは、「円相(えんそう)」です。
円相は、禅の世界で、宇宙や真理を一つの円で表したものです。始まりも終わりもない円の形は、地球から火星圏へ向かい、再び地球へ戻ってくるMMXの旅にも重なります。オレンジ色は、MMXがめざす火星を表しています。そして、大きく描かれた円には、地球を飛び立ち、火星圏を探査し、再び地球へ戻るまでの長い旅と、約5年間のミッションを無事にやり遂げてほしいという願いを込めました。
禅に着目したのは、日本らしさを、世界中の人に伝わるシンプルな形で表したかったからです。富士山や和柄を使うのではなく、一本の筆で描いた線や、広い余白、手で描いた跡から、日本らしさを感じてもらいたいと考えました。

筆の線は、きれいに整いすぎてはいません。ところどころに、かすれや色の濃淡があります。それは、MMXが人の手によってつくられた探査機だからです。探査機をつくる人、宇宙へ送り出す人、遠い地球から見守る人。国内外のたくさんの人の力と、長い時間の積み重ねが、この旅を支えています。その一人ひとりの手と、成功を願う気持ちを、円相の筆跡に重ねました。

MMXのミッションマークも、「リング」をもとにデザインされています。そこには、火星やフォボス、ダイモス、地球、国際協力のつながり、そして「人々が集まり、輪を大きくしていく」という思いが込められています。今回の円相も、その「輪」を受け継いでいます。
円の内側には、大きな白い空間があります。
けれど、ここは何もない場所ではありません。これから始まる約5年間の物語が描かれていく場所です。火星圏への到着、フォボスへの着陸、試料の採取、そして地球への帰還。まだ誰も見たことのない景色や、新しい発見が、この余白を少しずつ満たしていきます。
そして、その前に、MMXがいます。
「また会えるのは、5年後。それまで、地球をよろしく。」
まるでMMX自身が、地球に残る私たちにそう語りかけているようです。
このポスターは、打上げの日だけを知らせるものではありません。MMXと私たちが一緒に歩んでいく、約5年間の冒険の最初の一ページです。
オレンジの円の向こうに、どんな物語が待っているのか。
MMXの旅が、いよいよ始まります。
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