MMX搭載ミッション機器「サンプリング装置」フライトモデルのシステム引渡し

サンプリング装置は、火星衛星探査計画(MMX)の探査機に搭載される13の機器のうちでもサンプルリターンミッションの中核をなす機器で、「C-SMP」と「SSTM」から構成されます。「C-SMP」はセンサを搭載したロボットアームです。探査機がフォボス着陸後、周辺地形を撮影し、生画像と3D地形データを地上に送信します。地上のオペレータが指定したサンプリング地点から小石や硬い地点を避けたうえで火星衛星表面から深さ2cmに渡るまでのレゴリスを採取します。フォボスの着陸運用後にSSTMのコアラー収納部に収納します。その後SSTMはその収納されたサンプルを地球に帰還するサンプルリターンカプセル(SRC)に搬送し、科学目的のためにサンプルコンテナを真空密封します。

左:C-SMP FM。右側が打ち上げ固定されている形態のマニピュレータで、左側構体がその手先になる。その手先に搭載された袋の中の円筒形の部分にコアラー機構が搭載されており、周辺のカメラやピックで安全な場所でサンプリングできる箇所を探索する。右:C-SMPの引渡時の関係者の集合写真。MELCO鎌倉クリーンルーム内にて撮影。C-SMPを前にして、前列左から、田中大基、加藤裕基(JAXA)、坂本文信、吹井柊太(以上、川崎重工)、後列左から、澤田弘崇(JAXA)、鬼塚和彦、村瀬謙悟、入松川裕平(以上、川崎重工)

C-SMPは、2019年4月から開発メーカ(川崎重工業株式会社)で基本設計を開始しました。設計審査やエンジニアリングモデル(EM)製造や各種開発試験を経て、2024年4月にFM総合試験に向けて探査機に組み付けられました。

サンプリング装置は、サンプルリターンミッションの中核をなす機器で、「C-SMP」と「SSTM」から構成されます。2024年4月にC-SMPが、7月にSSTMが、MMX探査機への搭載に向けて、正式に引き渡されました。

左:SSTM FM。手前から見えているサンプル収納部(写真中央右に2行2列に並ぶ円筒状の機器)にC-SMPのマニピュレータでコアラーやP-SMPを収納する。その後、SSTMがサンプルリターンカプセル(SRC)に搬送し、理学目的のために真空密封する。右:SSTM引渡時の関係者の集合写真。MELCO鎌倉クリーンルーム内にて撮影。SSTMを前にして、左から、加藤裕基(JAXA)、渡部孟、宮岡幹夫、山地恒輔 (以上、住友重機械工業)、澤田弘崇、田中大基(以上、JAXA)

また、SSTMは、2019年7月から開発メーカ(住友重機械工業株式会社)で基本設計を開始しました。設計審査やエンジニアリングモデル(EM)製造や各種開発試験を経て、フライトモデル(FM)の開発完了を確認する認定試験後審査(PQR)及び出荷前審査(PSR)を通過しました。その後、2024年4月にC-SMPが、7月にSSTMが、探査機システムメーカ(三菱電機株式会社)鎌倉製作所に輸送され、輸送後機能確認の後に、正式に引渡されました。

今後C-SMPとSSTMは、探査機に組付けられて、探査機システム総合試験に供されることになります。

図 :MMX搭載機器コンフィギューレーション図
C-SMPの取り付け部は、From-Z の画像上を参照。

C-SMPの開発責任者(PI)加藤裕基
JAXA

2015年にサンプリング装置の検討が始まった以来険しい山々と深い谷を越えてようやくここまで漕ぎ着けました。最初に、これまで関わってすべての人々に感謝の気持ちを伝えたいです。ロボティクスの専門家である私は、ロボティクスミッションが自由に宇宙に打ちあがっていく未来を目指しています。そして、MMXのサンプリング装置は歴史を一つ刻み、世界に誇れるステップです。MMXが火星圏に行ってサンプルリターンに成功すれば、有人火星探査の話もどんどん出てくる、つまり人類の進歩への貢献を感じられるのです。

実は、「Martian Moons eXploration(MMX)」はミッション初期のミッション名選定のチーム議論で私が提案し採用された名前でもあります。(「Martian Moons Exploration(MME)」という既存の案から「MMX」はどうかと提案しただけですが。)私もMMXに愛情を込めて育てた親の1人ですから、大きな責任を感じていて、同時に特別な想いをもっています。打ち上げまで気を抜かずやり抜きます。

C-SMPの開発企業担当者 坂本文信
川崎重工業株式会社 航空宇宙システムカンパニー 防衛宇宙ディビジョン 防衛宇宙システム総括部 宇宙システム設計部 宇宙システム設計課

フォボス表面に滞在出来る時間に制限があり、地上から全て操作してサンプリングを行うことが出来ません。そのため、C-SMPは自律で判断し、サンプル採取を行う必要があります。不確定要素のある地表面に対してどのように自律でサンプリングを実施するか、JAXA担当者の方々と協議を繰り返して作り上げました。確実にミッション達成出来るように、JAXA殿および三菱電機殿と引き続き協力していきたいと思います。

SSTMの開発企業担当者 宮岡幹夫
住友重機械工業株式会社 産業機器事業部 医療・先端機器統括部 設計部

SSTMは、フォボスのサンプルを採取したコアラーを受取り、地球に帰還するサンプルリターンカプセルに送り込むというミッションを繋ぐ役割を持つ機器です。実績あるはやぶさ2の機構を踏襲しましたが、想定外の不具合が発生し、開発では苦労しました。今回引渡しが完了し、安堵していますが、SSTMは総合試験でサンプリング動作を実施した後、1度動作させた機構を再組立てする必要があります。改めて気を引き締めて作業対応したいと思います。