火星衛星のレゴリスをごっそり採ってきたい
MMXサンプリング装置チーム 澤田弘崇
火星衛星探査計画MMXはご存じの通り、火星衛星からサンプルリターンすることがメインのミッションで、重要なミッション機器の一つがサンプリング装置です。詳細は省きますが、MMXのサンプリング装置にはざっくり噛み砕くと以下のような要求があります。
・1回のサンプリング運用で10g以上のサンプルを採取すること(理学)
・表層から2cm以上の深さサンプルを含んだレゴリスを採取すること(理学)
・複数回のサンプル採取が行えるシステムとすること(理学)
・将来のミッションにも使える素晴らしいサンプリング技術を獲得すること(工学)
これらの要求を満たすために、チーム内で喧々諤々(?)の議論を重ね、最終的にロボットアームとコアラー機構を組み合わせたシステムにすることにしました。コアラー機構とは、筒を突き刺してサンプルを採る仕組みです。
現在、ミッション要求を満たすサンプリング装置を理学メンバのみなさんとも議論しながら技術検討を深めていますが、その話は追々報告するとして、今回はコアラー機構について紹介したいと思います。
日本は、「はやぶさ」と「はやぶさ2」という2つの小惑星サンプルリターンミッションの実績があり、世界で唯一、小惑星からのサンプルリターンを実現した国です。(「はやぶさ2」は現在、小惑星リュウグウにむけて航行中)
今回も2つのミッションで培った技術は最大限引き継ぎますが、要求されるサンプル量が10g以上と、はやぶさ2と比べたら100倍以上の要求のため、コアラー機構というたくさんのレゴリスを一気に採れる仕組みを考え、さらにより確実にコアラーを突き刺すためにロボットアームを使うという少し複雑なシステムにチャレンジします。この技術は、将来の探査ミッション、サンプルリターンミッションに必ず役に立つ技術になるはずです。
キーとなるコアラーによるサンプル採取技術を確立するために、JAXAインハウスでコアラーの基本機能を確かめるための試験装置を作り、月惑星探査実験室をお借りして基礎試験から開始しました。コアラーを突き刺す砂の粒子サイズ、コアラーの直径や厚み、コアラーを撃ち出すバネの強さを変更し、試行錯誤しながら試験を繰り返した結果、「これでイケる!」という解が見えてきました。想定している直径25mm~30mmのコアラーで、ミッション要求である2cmの深さを十分満たすような機構を開発できる目途が立ちました。10種類以上の砂を使って実験をしたのですが、7~8cmくらいサクサク刺さるコアラー機構になりました。砂利に対しても5cmくらいは楽に刺さります。
次は、刺すだけでなく、コアラーの筒の中に入ったサンプルをしっかりと閉じ込める蓋の機構を考える必要があります。あとは、砂や砂利の中に筒が引っかかって抜けなくなるのも避ける必要があります。現在は、コアラー機構については開発メーカーと一緒になって、より詳細な機能検証モデルの開発を進めています。ロボットアームや、サンプルを探査機本体の中で保管しカプセルまで移動させる装置、サンプリング装置全体をコントロールする電子機器などはいろいろなメーカーと協力しながら技術検討を深めており、MMXの探査機に搭載するサンプリング装置の全体像が固まりつつあります。
これらの成果は、また改めて報告したいと思います。