小天体探査の全体像を共有する -JpGUでのパネル討論会から-
宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 藤本正樹
日本地球惑星科学連合大会(JpGU)は、毎年5月に幕張で開催される日本惑星科学関連では最大の学会です。今年はアメリカ地球物理学連合大会との共同開催で、海外の研究者も特に多く参加しました。今年はそのセッションにおいて日米の小天体探査計画のリーダーを集めたパネル討論会が開催され、小天体探査からの惑星科学というテーマでの活発な議論が行われました。
ロゼッタによる彗星67P/C-G2の探査結果は、彗星に関する考え方を大きく変えました。現在、はやぶさ2とOSIRIS-RExというJAXA、NASAによる兄弟ミッションが始原的(C型)小惑星からのサンプルリターンを行う対象天体へと向かっています。JAXAでは、サイズはちょうど小惑星と同程度な火星の衛星からのサンプルリターンを行うMMXが準備中であり、ダスト放出小惑星(流星群の母天体)であるフェイトンをフライバイ探査するDESINY+の準備検討も佳境を迎えています。木星のトロヤ群小惑星に関して、そのいくつかをフライバイ探査する計画LUCYを実行することをNASAは今年早々に決定し、JAXAはソーラー電力セイル計画によって、そのひとつを精査することの検討を深めています。LUCYとともに、鉄のコアが暴露している小惑星サイキを探査する計画も選定されました。
このように小天体探査は黄金期にあると言ってもよいのですが、さて、これらの探査計画はそれぞれの対象天体を理解するためだけにあるのでしょうか?そうではなく、計画間のシナジーを意識的に考えてこそ、惑星科学全体へのインパクトを最大化できるのだという考えに基づき、(ロゼッタを除く)7つの計画のリーダーが集まる討論会が開催されたわけです。特にJAXA宇宙科学研究所(ISAS)では、「スノーラインの外側で生まれた小天体が、地球を生命居住可能にする必須物質を輸送するという役割を担っていた」「これらの小天体は、彗星のようなものから出発して進化することで、始原的小惑星のような状態へと至った」「いつ、進化のどの段階で、どういう形で、これらは地球へと必須物質を輸送したのか」という重要課題に探査から実証的に迫るという問題意識の下、複数の小天体探査計画をプログラム的に展開する構想を持ちます。「スノーライン」「輸送」「生命居住可能性に必須な物質」というキーワードについては、機会を見つけてこのページで解説していこうと思います。また、パネル討論での発言の様子等については、英語版ページをご覧ください。