NASAがMMXの科学チームに参加する科学者10名を選出!
2023年4月、NASAは全米から、火星衛星探査計画「Martian Moons eXploration(MMX)」のサイエンスワーキングチームに参加する科学者を10名選出しました。MMXが軌道上からフォボス、ダイモス、火星の環境を詳細に観測する際に、日本チームとともに探査機に搭載された観測機器のデータを分析し、MMXがフォボスから採取して地球に持ち帰るサンプルの調査にも参加する予定です。

この発表は、日本のMMXチームから熱烈に歓迎されています。日本のMMXサイエンスチームの主任科学研究者である倉本圭教授(北海道大学)は、学際的なテーマに取り組む必要があるミッションでは、さまざまなスキルを結集させることが重要だと強調します。
NASAにより選考された10人の参加科学者が、MMXのサイエンスワーキングチームに加わりました。MMXのサイエンスを推進する上で、様々な科学者の協力は非常に重要です。なぜなら、MMXミッションは、火星衛星の起源、初期太陽系の進化、衛星の地質・測地学、火星大気と火星・衛星システムの進化など、幅広い科学的テーマの解明を目指すからです。また、その手掛かりは、8つの高度な科学機器を使った3年間の観測と、帰還したサンプルを最先端の技術で精密に分析することで得られる、火星の衛星とその周辺空間、そして親惑星である火星に関する膨大なデータだからです。これらのデータを作成・処理し、そこから豊かな科学的成果を導き出すためには、科学者たちの共同研究が強力かつ不可欠なツールです。
MMXはNASAに選ばれた科学者のみなさんを歓迎します。7名が観測科学の専門家、3名がサンプル科学の専門家です。彼らが我々のチームに加わることは、MMXの科学を発展させる上で非常に有益です。私たちは彼らとの共同研究を楽しみにしています。そして、拡大した共同研究によって、ワクワクする科学的発見がなされることを確信しています。
倉本 圭, 主任科学研究者
今回の科学者選出の発表は、JAXAとNASAがMMXミッションでの協力に関する了解覚書(MOU)に調印した直後のタイミングでもあります。サイエンスワーキングチームへの参加に加え、NASAはMMX探査機に2つの機器を提供します。1つ目は、ジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所で開発されているガンマ線・中性子スペクトロメーターです。日本語の「眼鏡」に因み、MEGANE(the Mars-moon Exploration with GAmma rays and NEutrons)と巧みに名付けられたこの装置は、火星衛星の元素組成を探索するものです。2つ目は、Honeybee Robotics社が開発した空気圧式(P)サンプラーです。これはMMXに搭載された2つのサンプリング機構のうちの1つで、探査機が火星の最奥の衛星であるフォボスに着陸した際に、フォボスの物質を採取するためのものです。

MMXのサンプル分析チームのリーダーであり、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)の地球外物質研究グループのグループ長である臼井寛裕教授にとって、このサンプル収集は重要なテーマです。特に、参加する10人の研究者のうち3人がサンプル分析の専門家であることに期待を寄せています。
米国から10名もの優秀な研究者がMMXに参加いただけること、非常に楽しみです。選ばれた10名の皆さんは、それぞれが各分野のエキスパートであり、MMXサイエンスチームに新たなアイデアや知見をもたらしてくれることでしょう。特に、サンプル分析チームのリーダーである私にとって嬉しいことは、3名のサンプル分析を専門とする方が、リモセン観測のフェーズから参加いただけることです。サンプル採取地点の選定には、リモセン観測の専門家に加え、実際にサンプルを分析する専門家の意見が必須です。また、これから始まる探査機の運用と同じ時期には、サンプルの帰還に向けたキュレーション施設の開発・設計を行います。MMXキュレーション設備は、はやぶさ2と比較し、より大量かつ多様性に富む試料の取り扱いが求められます。彼らの加入は、MMXサイエンスチームの強化のみならず、キュレーション準備への貢献も間違いありません。
臼井寛裕, MMX サンプル分析ワーキングチーム(SAWT)主任
MMXミッションには、フランス国立宇宙研究センター(CNES)が提供する赤外線分光計(MIRS)、CNESとドイツ航空宇宙センター(DLR)が共同で設計したフォボス表面探査用ローバーも搭載される予定です。世界中の専門知識を結集することで、太陽系の地球型惑星研究への入り口である火星圏へのこの素晴らしいミッションから、科学的成果を最大限に引き出し、多くの発見を生み出すことを期待しています。