火星衛星サンプル採取を成功に導くため、MMXチームとTwinkle宇宙望遠鏡チームが合同作戦会議を実施!

記事執筆:東京工業大学 地球生命研究所 特任准教授 黒川 宏之


MMX探査機による火星衛星フォボスのサンプル採取を成功に導くため、2022年12月にMMXとTwinkle宇宙望遠鏡それぞれの関係者が合同作戦会議を実施しました。火星衛星探査計画MMXの目的の一つは火星衛星の起源を解明することです。火星衛星の起源に関しては大きく分けて二つの説があります。一つは火星圏外から飛来した小天体が火星の重力によって捕獲されたとする捕獲説、もう一つは火星表面に天体が衝突してその衝撃で巻き上げられた物質によってできたとする衝突説です。火星衛星の起源を解明するために、MMX探査機は火星衛星フォボスのサンプルを採取して地球に持ち帰ります。持ち帰ったサンプルの分析によって、火星衛星の起源を突き止める決定的な証拠が得られると期待されています。MMX探査機のフォボス観測データをもとに、我々は科学的にもっとも価値の高い着陸地点を選定します。

[→ 火星衛星の形成についての解説ビデオ]

Twinkle宇宙望遠鏡の想像図 (Twinkle / Blue Skies Space)

しかし、MMX探査機の火星圏到着から着陸地点選定までの時間は限られています。観測計画を立て、MMX探査機に搭載された科学観測機器を使ってフォボスを観測し、取得したデータを地球に送り、地上でそれを解析し、結果をもとにさらなる観測計画を練る、というサイクルを繰り返すことで、我々は火星衛星の起源についての仮説を検証し、急ピッチで着陸候補地域を絞り込んでいく必要があります。MMXチームでは着陸地点選定のトレーニングを実施し、一連の作業を滞りなく行えるよう備えていきますが、火星衛星の起源のヒントとなるデータが探査機MMXの火星圏到着前に得られれば、限られた時間で行う着陸地点選定の大きな助けとなります。

そこで我々が期待を寄せているのがTwinkle宇宙望遠鏡です。Twinkle宇宙望遠鏡は、英国のBlue Skies Space社が2024年に運用を開始する予定の新しい宇宙望遠鏡です。地球の大気の影響を受けないTwinkle宇宙望遠鏡は、可視光から赤外線での観測を通じて、水(含水鉱物)や有機物など火星衛星の起源に直結する物質の存在を探ることができます。2025年の探査機MMXの火星圏到着に先んじて、Twinkle宇宙望遠鏡が火星衛星を観測することで、着陸地点選定のためのMMX探査機の運用・観測立案に直結する情報を得ることができる可能性があります。MMXとTwinkleの関係者は火星衛星の事前観測を実現すべく、2019年からオンラインで議論を重ねてきました。

特任助教 黒川 宏之 (ELSI)

2022年12月、MMXチームとTwinkleチームは3年越しの対面会議を実施し、MMXのサンプルリターンミッションをサポートするためのTwinkle宇宙望遠鏡による火星衛星観測プランを協議しました。Twinkleチームからは宇宙望遠鏡打上の準備状況が共有されました。MMXチームからはミッションの準備状況を説明しました。こうした協議を通じて、MMX探査機の火星圏到着前の衛星フォボス観測の重要性が共有されました。また、MMX探査機での観測機会の限られる衛星ダイモスをTwinkle宇宙望遠鏡で観測することについても議論が交わされました。MMXチームとTwinkleチームは、質の高い観測データを得るために会議の中で抽出された課題について今後も協力して検討を重ね、探査機MMXの火星圏到着に備えます。


関連リンク:

Blue Skies Space (外部リンク)

火星衛星はどのようにできたのでしょうか? (解説ビデオ [YouTube])