火星衛星探査計画と惑星保護

宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 春山純一

日本はこれまで、着実に探査の水平線を伸ばしてきました。そして、ついにそれは火星の衛星サンプルリターンを目指すに至っています。火星衛星探査計画 (MMX)です。そして、もちろん、その先にみすえていることの一つに、生命生存環境(ハビタブルゾーン)の調査があります。それは、火星の、液体物質(水?)時折噴出する場所、泥火山、或いは溶岩チューブのような地下空洞であり、更に、火星を越えれば、その先には、中に大洋を抱えている天体、たとえば、木星衛星エウロパ、ガニメデ、或いは、土星衛星エンケラドゥス、更には冥王星、、、様々な天体です。こうした生命を育みうる可能性の高い環境を持った天体が、待っています。

JAXA宇宙科学研究所で惑星保護に関するチュートリアル(勉強会). (Credit PPOSS)

そうした様々な探査を見据えて、我々はしなければならないことがあります。それは、「惑星保護」の検討です。探査する対象天体を汚さない、それら天体から持ち帰ったもので地球を汚さない、というのが惑星保護の標語でもありますが、惑星保護は決して、惑星を保護するために何も探査をしない、ということではなく、人類がうまく正しく、惑星など宇宙の他の世界を探査するために、どう取り組むか、科学的にきちんと対応を練ろう、という活動です。

今年(2017年)5月11日、12日に、JAXA宇宙科学研究所で、世界的に惑星保護分野での中心を担う、優れた専門家でもあり影響力を持たれる方々を講師にお迎えして、惑星保護に関するチュートリアル(勉強会)を開催しました。参加者は総勢80名にものぼり、多岐の部署にわたるJAXA職員他、大学研究者・学生、宇宙企業など多彩な方々が参加し、惑星保護についての理解を深めました。まさに、オールJAXA、そしてそれを越えて、オールJAPANとして、惑星保護への対応への第一歩となったと言えるのではないかと思います。

惑星保護への取り組みの重要性が殊更はっきりしてきたのが、火星衛星探査計画です。例えば、一歩間違えば、火星に探査機が落ちてしまうかもしれません。探査機がもし、地球生命体で汚れていたら、その後の探査で、火星生命体探査といいながら、実は地球のものをみているだけ、ということになりかねません。我々は、様々に惑星保護の準備をしていくことが求められています。言い換えると、我々は、火星衛星探査計画を通して、惑星保護について、より多くの知識と経験を積んでいくことになります。

惑星保護への対応は、日本は欧米に比べ遅れていましたが、惑星保護の意識の高い研究者はたくさんおり、今後、日本は、惑星保護では、世界的なイニシアチブを担う国の一つとして名を連ねていくことになるでしょう。