MMXとTwinkle宇宙望遠鏡が共同で火星衛星の起源解明へ

記事執筆:東京工業大学 地球生命研究所 特任助教 黒川 宏之

Twinkle宇宙望遠鏡の想像図(クレジット: Twinkle)

火星衛星探査計画MMXとTwinkle宇宙望遠鏡は共同で火星衛星の起源を解明します.現在,火星衛星の起源に関しては大きく分けて二つの説があります.一つは火星圏外から飛来した小天体が火星の重力によって捕獲されたとする捕獲説,もう一つは火星表面に天体が衝突してその衝撃で巻き上げられた物質によってできたとする衝突説です.どちらの火星衛星の形成シナリオにおいても火星衛星の性質を調べることで,(生命が存在する可能性のあった火星を含む)原始地球型惑星の状況や,これらの惑星に太陽系外縁部から水や有機物がどのように移動してきたのかについての手がかりを得ることが期待されています.

この一連の19枚の画像は、NASAの火星探査機「マーズ・オデッセイ」に搭載されたTHEMIS(Thermal Emission Imaging System)カメラによって火星の衛星フォボスを可視波長の光で撮影したものです。(credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)

Twinkle宇宙望遠鏡は,英国のBlue Skies Space社が2024年に運用を開始する予定の新しい宇宙望遠鏡です.赤外線と可視光の波長域の分光観測が可能で,それぞれの波長で天体から反射された光や放射された光の量を測定することができます.火星の衛星の構成物質を明らかにするためには赤外線での観測が鍵になりますが,地球の大気は赤外線を吸収するため,地球からの観測は困難です.そのため,宇宙から観測することのできるTwinkle宇宙望遠鏡はMMX探査機の火星衛星到着に先んじて火星衛星を観測する最適な装置であると言えます.赤外線を含むTwinkle宇宙望遠鏡の観測する波長帯の分光データからは,水(含水鉱物)や有機物など火星衛星の起源に直結する物質の存在を探ることができ,事前観測によってMMXのサンプルリターンミッションを強力にサポートします.

MMX探査機の火星衛星到着前の2024年度にTwinkle宇宙望遠鏡を用いて火星衛星フォボス・ダイモスの観測を行います.Twinkle宇宙望遠鏡の取得する観測データは,MMXの最適な観測プログラムやサンプリング戦略などの運用計画の立案や観測結果の精度を確保するための機器の校正に役立てられることが期待されています.