火星の衛星の謎を解き明かすベストな方法とは?:フランスとの連携と技術検討を推進

坂野井健 東北大学理学研究科・准教授

パリ南大学IASにおける会合の様子

MMX (Martian Moons eXploration)ミッションは、JAXAとフランス国立宇宙研究センター(CNES)や米国NASAとの国際協力で進められています。特に今回は、MMXによる火星の衛星探査に不可欠な軌道計算と近赤外装置開発の両面についてフランスチームと綿密な検討を行いました。また、JAXAとフランスチームの連携体制について議論し、より強固な関係を築きました。 

私自身、これまでれいめいやISSなどで可視イメージャーや分光器開発実績がありますが、衛星搭載の赤外分光器の経験はありません。フランスチームはマーズエクスプレス等の赤外分光器で世界トップレベルの実績があり、かつ大型の実験設備を持っています。MMXに搭載予定の近赤外イメージング分光器はAOTF(音響光学素子)を用いた斬新なもので、赤外装置の最前線に開発初期から携わることが出来たのは私にとって大変な喜びです。これまで、日本とフランスチームは、理学観測要求を実現するために最適な観測器設計を見いだすという共通の目標に向かって議論を重ね、良好な関係を築いてきました。今回はその関係をさらに深め、また複数の対物レンズを切り替えるアイディアについて開発検討を深めることが出来ました。 

10月30日の週にISAS/JAXAの川勝さん、藤本さんをはじめとする日本チームがフランスを訪問し、CNESの代表者らとMMXミッションの共同レビューを行いました。共同レビューでは、まず初日午前にパリ南大学の天文宇宙研究所(IAS)、午後にパリ市内のCNESオフィスに移動して、現状報告ならびにフランスと日本チームメンバーの連携体制について議論しました。2日目はIASにて近赤外線リモートセンシング分光器の開発会議を行い、さらに3日目はトゥールーズのCNES本部に移動して火星衛星にローバーを着陸させるための技術検討が行われました。この共同レビューでは、様々な課題に対して率直な意見交換が行われ、フランスと日本の関係をより深めることができました。 

MMXの最大の目的は、火星の衛星フォボス表面からサンプルを回収し、地球へ持ち帰って詳細に解析し、フォボスの起源を解明することです。しかし、そのサンプルがフォボスのたまたま一地点の情報ではなく、フォボス全体を代表しているかを知るにはどうすればよいでしょうか? 

この疑問に答えてくれる装置がフランスと共同開発する近赤外イメージング分光器MacrOmegaです。MacrOmegaは近赤外線リモートセンシングよりフォボスやダイモスの表面全体の地質マップを作成します。このマップは、サンプルを採取する地点を決めたり、サンプル地点がどれだけ代表的かを調べたりするのに用いられます。ただし、予想される含水鉱物や有機物を捉えるには、高品質(SN比で300以上)のデータが必要です。10月31日の会合では、この高品質データをフォボス全域で取得するために必要な条件と技術課題が検討されました。 

(左)パリ市内CNESオフィス玄関。 (右)近赤外イメージング分光器の鍵となる音響光学分光素子(AOTF)。

また、探査機周回軌道上からのMacrOmegaのフォボス表面の空間分解能は約20 mであるのに対し、回収されるサンプルは最大で数cmのレゴリス粒子です。ここでMacrOmegaによるフォボス表面の空間分解能と回収されたサンプルの空間サイズの違いをどのように埋めれば良いか、という疑問が生じます。この解決のために、本会合ではサンプル回収時に探査機がフォボスに降下する際に、MacrOmegaが観測を行うことを検討しました。これにより、MacrOmegaはより小さな空間分解能でフォボス表面を観測できます。しかし、このためには距離が近くなってもピントがぼけないよう複数の対物レンズを用意する必要があります。これを実現するための方策と技術課題の検討がなされました。 

さらに、フォボス表面のクレーターなどの地質不均一性を理解するためには、探査機の1回ないし2回の着陸で回収されるサンプルとMacrOmegaをはじめとする複数の可視・近赤外リモートセンシングデータを統合させる必要があります。このために、ローバーが重要な役割を果たします。地球以外の惑星の衛星に着陸するローバーはこれが世界で初めてで、野心的な計画です。現在CNESではこのローバーについて機械・電気設計、熱設計、レゴリス研究者など多くのグループが検討を進めています。11月2日の会合では、CNESチームからフォボスの低重力、極端温度環境、未知のレゴリス環境について予備的研究成果が報告されました。 

MMXではJAXAとCNESならびにNASAとの国際的な連携により、理学と工学の両面から高度な知識と経験がミッションに反映され、火星とその衛星に新たな発見をもたらすことでしょう。この国際連携は、次世代の宇宙探査を担う世界中の若手研究者の注目を集め、参加を促し、貴重な機会を与えています。今後より大型となる宇宙探査計画は、国際連携のもとで進められることが普通になるでしょう。MMXはその先駆的なロールモデルとして新たな可能性の扉を開くものです。