フォボスとデイモス:有人探査の観点から

サラ・クライツ JAXA宇宙科学研究所

 

火星衛星探査計画(MMX)の探査対象である火星衛星に関して、2017年7月NASAエームズ研究所で開催された会議においては、それは将来の有人探査の行き先であるというニュアンスでも語られました。この会議はNASA・SSERVI(Solar System Exploration Research Virtual Institute)が主催したものであり、SSERVIとは科学と有人宇宙探査との融合を図るために設立された組織です。エームズの会議では、火星衛星フォボス(下図)・デイモスが、まさに科学と探査の観点から議論するのに価値の高い対象であることが確認されました。

火星の衛星フォボス

火星衛星に拠点を置いて活動することは、火星表面にアクセスすることよりも容易であることから選択肢のひとつです。この観点からは火星衛星は、そこから火星表面にある設備を無線操縦する場所、火星サンプルを貯蔵しておくための場所、さらには、(その存在が確認された場合には)水等の資源を現地調達するための場所と考えることができます。このように、現在のフォボスやデイモスに水があるのかないのかという課題は、その起源を理解するという興味からは当然のこと、別の観点でも重要であり、それらの内部における水の安定性に関する研究結果が会議でも発表されていました。

 

逆に、フォボスが(それほど規模の大きくない)巨大衝突(giant impact)で形成したという説もあり、これに基づいた数値実験結果はフォボスが主に火星を形作っていた物質で構成されているはずであること、その過程で高温を経るために水はほとんど残っていないであろうことを予言します。会議ではサウス・ウェスト研究所のカナップ博士が発表していましたが、実は、同様な研究は東工大のチーム(玄田さん、兵頭さん)も鋭意、しかもMMXと強く連携する形で進めており、このように複眼的・複層的にMMXに関連するサイエンスが進展することは望ましいことです。現在進行中の米国からの観測機器(中性子・ガンマ線分光装置、NASA提供)の選定作業が完了すれば、フランスだけでなく米国からのミッション参加が本格化し、分厚い議論が展開されることでMMXの価値がますます高まるものと期待します。

 

さて、将来の「宇宙探査」はどうあるべきなのでしょうか?この質問は、SSERVIが主催する会議の通奏低音でありました。実際、この質問に関連した講演もいくつか、例えば冥王星・カイパーベルト天体を探査するニューホライゾン計画のPIであるアラン・スターンによるものがありました。アポロによる有人探査が惑星科学を現代化したという回想、そこから我々は太陽系をどれだけ知るようになったのかという俯瞰、そして、無人探査が一回りした今(これを宣言するのに、冥王星探査機のPIであるスターン以上の人物がいるだろうか!)、有人探査へと再び踏み出すべきであるという演説は、総立ちの拍手で迎えられました。

 

「宇宙探査」はどうあるべきかは、今後、JAXAにおいてもホット・トピックとなっていきます。今回のエームズでの会議から想像するに、そこでもMMXは顔を出すことになるのでしょう。

探査機のイメージ