MMXはかつて火星に輪があった証拠をつかめるか?!

火星の2つの月(衛星)がどのようにして形成されたかを明らかにすることは、「火星衛星探査計画MMX (Martina Moons eXploration)」の重要な目的です。現在のところ、火星の衛星の起源に関しては競合する2つの説があります。火星の衛星は小惑星が捕獲したものであるとする説(捕獲説)と、巨大な小天体の火星への衝突によってできたものであるとする説(衝突説)の2つの説が考えられています (解説ビデオ)。

衝突説の証拠として、2つの火星の月が火星の赤道面上に、ほぼ円形の軌道を回っていることが挙げられます。これは、火星の表面に小天体が激しく衝突した際に火星の周りに放出された破片から月が誕生した自然な結果であると考えられます。小惑星が火星の重力に捕獲された場合には、このような現象(赤道面上をほぼ円軌道で回る)が起こる確率は低いと考えられています。

フォボスとダイモスは、軌道周期が火星の自転周期と一致する同期軌道の位置(赤い線)のそれぞれ内側と外側で火星の周りを周回しています。その結果、潮汐力がフォボスを火星に引き寄せ、ダイモスを外側に押しだしています (© JAXA/E. Tasker)。

しかし、火星の月の軌道が衝突による形成を支持する証拠であるにもかかわらず、いくつかのそれに反する証拠があります。それは火星の2つの月は火星の静止衛星軌道(軌道周期が火星の自転周期と一致する軌道)の内側と外側にそれぞれあることです。内側に位置するフォボスは火星の自転よりも速く火星の周りをまわっているのに対し、外側に位置するダイモスは火星の周りを火星の自転よりもゆっくりとまわっています。その結果、火星の重力による火星の月への潮汐力の影響で、フォボスは徐々に火星に近づき、ダイモスは徐々に火星から離れていっています。最終的には、ダイモスは火星の重力から完全に逃れて火星の月でなくなり、その一方で、火星の重力によってフォボスは粉々に引き裂かれてしまうと予想されています。

ダイモスの軌道の火星から離れる方向への移動と、フォボスの終焉のタイムスケールの両方が、衝突のシナリオに疑問をもたらしています。火星の地殻をみると火星の2つの半球の間に標高差があり、それは大きな衝突の証拠を示しています。これは、4.3Gyrs(43億年前)以上前に火星の月が形成された衝突によって引き起こされた可能性があります。もし、その衝突がフォボス星を形成したのであれば、内向きに移動する火星の月は、現在のフォボスの軌道の約2倍の距離外側に形成されていなければならないことになります。しかし、そのような軌道の遷移は、月が内側に移動する際にダイモスと2:1の共鳴(resonance)を通過したことを意味し、それは目に見える証拠を残している必要があります。

木星の三つの衛星、イオ、エウロパ、ガニメデの軌道は軌道共鳴の関係にある。(source)

共鳴は、同じ系の惑星や月の軌道周期の比が小さな整数であるときに起こります。2:1の共鳴では、ダイモスが火星を1周するごとに、フォボスは火星を2周することになります。これは、ブランコに乗っている子供を押すのに似た、月の間の規則的な引力を生み出します。ブランコと同じように、力の規則性が強い反応を生み出します。火星の月の間に2:1の共鳴が起こった場合、予想される結果は、小さい方の「ダイモス」が離心率の大きな楕円軌道に移動させられるということです。しかし、火星の月にはそのような兆候は見られません。しかし、もしフォボスが2:1の共鳴位置の内側で形成されたならば、フォボスは現在の位置をはるかに超えて移動しているはずです。

もう一つの課題は、火星との巨大衝突の際に形成された破片による円盤が、静止衛星軌道の距離ほどまで外にはみ出してはならないということです。これは2つの火星の月の軌道にとっての課題ですが、特に静止衛星軌道の外側に形成されたはずのダイモスの軌道が外側に移動していることが課題となっています。

この難問に対する興味をそそられる解決策は、過去40億年にわたって、火星が一連の輪(リング)を持っていたということです。このアイデア(Nature Geoscience, Hesselbrock and Minton, 2017)は、巨大な衝突が火星の周りに巨大なデブリの円盤を作ったというものです。この円盤は、ダイモスと現在のフォボスよりもはるかに重い静止軌道より内側の月の両方を形成するのに十分な重さだった。それらの火星の月を形成した後の残りのデブリが飛散したあと、火星の重力がその内側の月を破壊するまで、内側の月はさらに内側に移動を続けました。内側の月は破壊されて、その破片がリングを形成し、それが外側に広がって新しい円盤を形成し、そして、それがまた集まることによって新しい静止衛星軌道の内側の月が誕生しました。この第二世代の火星の月は、順番に火星の方に引っ張られ、最終的には破壊され、さらに別のリングと第三世代の月を形作りました。これにより、ダイモスは火星との巨大衝突の直接の産物となるが、フォボスは、一連のリング形成エピソードの中で生まれた後の世代の月ということになります。

(A)巨大な小天体の衝突 (B)ダイモスと巨大な内側の月の形成 (C)破片によってできた円盤が2つの月を外側に押し出す (D)円盤が消えたのち、潮汐力により2つの月を内側に引き戻す (E)内側の月が破壊され輪が形成される (F)新しい内側の月が形成される (G)円盤が内側の月を外側に押し出す。ダイモスと3:1の共鳴軌道になるまで2つの月は外側に移動する (H,I)円盤が消え、内側の月が潮汐力により内側に引き戻され、再び破壊される。ダイモスは静止衛星軌道高度を超え、外側に動き続ける (J)フォボスが新しい輪から形成される (© JAXA/E. Tasker)。

このシナリオの利点は、火星の月の小ささを説明できることです。火星の半球ごとの違いを作り出すのに十分な規模の衝突は、フォボスやダイモスよりもはるかに大きな月を形成するのに十分な物質を放出したはずです。しかし、火星の内側の月の破砕の連続的なサイクルのたびに火星に物質が失われ、現在のフォボスを形成するのには十分な低質量のリングだけが残ることになりました。

今月、SETI研究所のMatija Cukによって出された研究論文は、このリング形成シナリオの証拠がダイモスの軌道上で見られるかもしれないことを示唆しています。

この論文では、ダイモスを生み出した初期の衝突後から、フォボスができる前の火星の月の生成のコンピュータシミュレーションを紹介しています。フォボス以前の火星の内側の月は、その前の内側の月の破壊された残骸のリングから作られた巨大な円盤の中に存在しました。円盤と円盤の中にある月の間の相互作用により、最初は月が外側に押し出され、フォボスになる前の内側の月がダイモスと3:1の共鳴を起こし、デイモスが1周するごとに火星を3周するようになるまで、フォボスになる前の内側の月は外側に押し出されます。

共鳴軌道上の月の間の規則的な引っ張り合いは、非常に安定した構造を作り出します。フォボスになる前の内側の月が外側に移動し続けると、ダイモスもまた外側に移動して共振位置を維持します。このように、フォボスになる前の内側の月とそれ以前の世代の月との間のつながりが、同期軌道上の位置を超えて、現在の軌道へとダイモスを導いているのです。

2:1の共鳴とは異なり、3:1の共鳴では、小さい方の天体の軌道の傾きは大きくなるが、軌道の楕円度に大きな変化は起こらないことがわかっています。その結果、ダイモスの軌道面は数度傾くが、離心率の大きな楕円にはなりません。これはまさに現在の火星の月の軌道に見られることです。軌道系射角が大きくなると、火星の月の間の共鳴が途切れます。破片の円盤が分散するとフォボスになる前の内側の月に対して外向きに引っ張る力がなくなります。内側の月は、その後、火星からの潮汐力をうけ、惑星に向かって降下を開始します。

火星の月は、地球の月よりも惑星に近い位置にあります。フォボスとダイモスは火星の同期軌道の内側と外側にあるのに対し、地球の月は地球の同期軌道(静止衛星軌道)よりはるかに遠くにあり、地球からゆっくりと離れていっています(© JAXA/E.Tasker)。

フォボスは、フォボス以前の破壊された月の残骸から形成されました。新しい円盤はまた、最初にフォボスを外側に押し出しましたが、フォボスの質量が低すぎて、ダイモスとの共鳴がおこらず、どちらの月にも影響を与えることはありませんでした。破片の円盤は再び飛散し、フォボスは、今日ある場所に向かって内側にその移動を開始します。

2つの火星の月の軌道は火星に多くの輪(リング)があったという説を支持していますが、それよりもはるかに説得力のある証拠は、火星の月を詳しく分析することから得られるでしょう。特筆すべきは、このシナリオが正しい場合、何世代にもわたって破壊され、また形成するというプロセスを経たフォボスの方が、ダイモスよりもかなり若いはずだ、ということです。

MMXがフォボスから採取するサンプルによって、火星の月の表面の強さに関する情報をもたらし、火星の月に深いクレーターを形成することがいかに容易・困難であるかを知ることができます。これにより、フォボスにあるクレーターとそれを作った衝突装置の大きさが結びつけられることができるようになります。太陽系のモデルを使って予想される衝突の頻度を知ることで、火星の月の年齢を正確に決定することができます。最近ではJAXAの「はやぶさ2」が訪問した小惑星「リュウグウ」でも、このような結果が得られました

フォボスの年齢が、火星との巨大衝突が起こった可能性が高い年代よりも大幅に若いことがわかれば、火星が繰り返し輪を持っていた歴史を持つ惑星であることを示す、説得力のある証拠となるでしょう。


論文 Cruk et al: Evidence for a Past Martian Ring from the Orbital Inclination of Deimos

火星衛星はどのようにできたのでしょうか?解説ビデオ